健康経営を推進することで見込める効果は「従業員の心身の健康」に限りません。
健康経営は中長期的な取り組みによって効果が出てきますが、他にも企業にとって見逃せないメリットが存在します。短期的に効果が出るケースもありますよ。
今回は、健康経営の発信を通じて「社会的評価・企業ブランドイメージ・知名度」が向上していく、という企業価値に関連するお話です。最後に大切なことも書きましたので、ぜひご一読ください。
健康経営を広報するメリット
健康経営の取り組みを対外的に広報することで期待できる主なメリットです。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1.採用活動に人が集まる(採用広報)
もっとも短期的な効果が出やすいのが、採用活動だと考えられます。新卒や中途採用に関わらず、求職者が応募企業を選ぶ時には労働条件や企業の姿勢などを比較します。多くはウェブサイトを参照して情報を入手していることから、採用のウェブサイトに健康経営の取り組みに関する情報を掲載することで、「従業員の健康に配慮してくれる会社」であることが伝わります。また、顕彰制度に認定されている場合は、自治体が発行する企業紹介冊子やウェブサイトにも企業情報が紹介されますので、求職者に対する露出が増えます。
2.ESGを重視する投資家向けに非財務情報として訴求でき、信頼獲得の一助になる(IR)
IRとは、投資家向けの広報です。近年、投資家は売上や利益といった財務情報だけでなく、ESG要素と呼ばれる「非財務情報」も考慮した投資活動を行うようになっています。
ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、統治(Governance)の頭文字です。
健康経営は、社会(Social)の項目:社会の中の社員の健康・安全 に該当する取り組みです。
統合報告書やアナリスト向け説明会で健康経営について説明することで、投資家の信頼を得るひとつのきっかけになります。(ESGと健康経営の関連について詳しくはまた別記事で解説します)
3.SDGsの取り組みをしていると訴求でき、サステナブルな企業だと認識される
(サステナビリティ・CSR)
日本国内でも認知度が86%と、多くの人が知っているSDGs(持続可能な開発目標)、健康経営は
目標3「すべての人に健康と福祉を」
目標5「ジェンダー平等を実現しよう」
目標8「働きがいも経済成長も」
に該当する取り組みです。(詳しくはこちらの記事で解説しています)
企業としてSDGsの取り組みの一例としてこんなことを実施しています、という切り口でのリリースや、サステナビリティレポート等での開示が可能です。また、近年、学生もSDGsに関する学校教育を通して理解促進、共感が進んでいます。SDGsは学生が企業を見る際の指標にもなっていますので、採用活動にも有効となる情報発信です。
4.従業員の家族が喜ぶ・従業員の定着率が上がる
普段、コミュニケーションをする機会が少ない従業員の家族が、例えば新聞やウェブサイトを通じて家族が属する企業が健康経営を推進していることを知ると「従業員を大切にしてくれている会社」という良い印象を受けるはずです。
企業発信→メディア→家族→従業員 と、健康経営の取り組みがこの流れで伝わることで、
企業→従業員に発信する場合よりも納得度が高まる効果も見込めます。従業員が客観的に「私の会社は社会的に見ても良い会社なんだ」と再認識することで、ロイヤリティーが高まり、定着率が上がるという効果も期待できます。
広報戦略と並行させる健康経営
健康経営に関する情報を、対外的に発信することで、多くのステークホルダー(利害関係者)に良い印象を与えることができます。しかし、やみくもに自社のメディアで事実のみを訴求していくだけでは、大きな効果は見込めません。
ではどういったタイミングや切り口で、どのように発信していけば良いのでしょうか。健康経営推進とともに、広報を戦略的に実施していく方法について具体的にお伝えしていきます。
① 広報担当者を決める
最初に、健康経営推進のグループ内で広報担当者を決めてください。広報部門がある企業は、そこから1名が参加する、また広報部門がない企業は、人事部や総務部などから1名、広報担当を決めてください。人とのコミュニケーションが好きで、文章作成に苦手意識のない方が良いでしょう。
② 健康経営の目標を整理する
「健康診断受診率100%を目指す」「喫煙者50%減を目指す」「ウォーキングイベントを開催する」といった年度目標を整理してください。健康経営に力強く取り組んでいることを対外的に示すためには、数値目標と達成率を公表することをおすすめします。対外的に説明する時に説得力が増しますし、統合報告書などに記載する場合は数字が求められます。
③ 健康経営推進の年間スケジュールを確認する
整理した目標を、スケジュールに落とし込んでいきます。広報視点で、適切なタイミングでリリースを作成するために必要な作業です。年間スケジュールは、健康診断やセミナー開催など見えているイベントを月単位でエクセルなどに整理しておくと便利です。
これから初めて健康経営に着手する企業は、健康宣言や担当者の選抜、社内通達といった内容で良いので必ずスケジュールに落とし込んでください。
④ 健康経営推進の項目ごとの広報戦略を検討する
自社で運営するウェブサイトやSNSで発信するのか、テレビや新聞、雑誌などの報道機関に情報提供し、メディアに取り上げてもらうよう図るのか。
まずは、自社のウェブサイトやSNSでの発信についてです。健康経営で広報できるネタとしては
・経営トップもしくは役員クラスの健康経営担当者による「健康宣言」メッセージ
・目標や進捗状況の開示
・目標達成時の報告
・顕彰制度(健康経営度調査など)の結果
・セミナーや勉強会開催報告、参加者アンケートの紹介
といった事実ベースの内容を簡潔にまとめたリリースを発信していくことができます。
企業が発行する、会社案内・統合報告書・サステナビリティレポートといった媒体で取り組みを紹介するのもおすすめです。
情報拡散の視点では、メディアに取り上げてもらうほうが圧倒的に有利ですが、取り上げてもらうためには独自路線で斬新な健康経営の取り組みをおこなう必要が出てきます。
メディアが報道する価値のあるもの=社会性・公共性・ニュース性、が見込める取り組み実績があれば、ぜひ報道機関に向けてメールや電話、FAX、郵送などで情報を提供してください。
Web PRという手法で、有料でリリースを拡散する方法もあります。
例えば、「健康経営の取り組みの一環で、SDGsに配慮した食事をカフェテリアで提供しました」「地域住民も参加する健康イベントを開催しました」「健康経営を開始して3年でメタボ社員が0人になりました」
といった、へぇー!ちょっとすごいね、いいね、といったテーマはどうでしょう。メディアにウケが良いものはきっと社員にもウケが良いはずです。目標策定に悩んだらメディアに取り上げてもらえそうな目標、という視点で考えてみると取り組みの勢いが増すかもしれません。
参考書籍:リリース配信する際のマスコミの連絡先が掲載されたハンドブックです。
重視すべきは従業員の温度感
経営戦略に正解がないように、健康経営も、広報戦略も、これさえすれば完璧!という答えはありません。どれだけ優れた施策で、他社が成功したものであっても、自社でも成功するとは限りません。
大切なのは、自社の従業員の性質を正しく認識することです。健康経営推進担当者にとって、従業員はお客さま、という考えもできます。お客さまが何なら受け入れてくれるのか、喜んで参加してくれるのか。シラケていないか。そういった温度感をしっかりと感じながら、健康経営を推進してください。年度スケジュールも都度調整しても全く問題ありません。
誰も取り残さない健康経営を推進する中で、必ず広報できるネタは生まれてきます。ぜひアンテナを高く張って社外に向けて発信できる情報をキャッチしてください。