「健康経営」という言葉を聞いたことはありますか?「経営」とつくので、会社に関することだとは想像できると思いますが、何が「健康」なのでしょうか。
健全な経営?
健康に関係する事業?
経営者が健康ってこと?
私が「健康経営エキスパートアドバイザーとして仕事をしている」と、家族や友人に話すと
このような推測が返ってくることがしばしばあります。
健康経営の健康は、何の健康?
その答えは、「働く人、従業員」です。
「従業員」が心身ともに健康で働けるように、企業が従業員の健康管理を戦略的に実践することが「健康経営」です。
従業員の健康増進に、企業として投資する、とも言えます。
これまでにも福利厚生などで従業員に健康配慮するような取り組みはあったかもしれませんが、健康経営は「従業員への健康投資」です。コストではない、という点が、従来の考え方と異なります。
健康経営の目的とメリット
健康経営には、企業、従業員、国が関わってきます。
それぞれの立場での目的があり、メリットがあります。それぞれについて見ていきましょう。
・【企業】にとっての目的、メリット
健康経営を実践する主体が企業です。近年注目されているキーワードに「人的資本」という言葉がありますが、健康経営はまさに「人的資本への投資」です。
健康経営の取り組みを行うことで、従業員の健康が増進され、生き生きと高いパフォーマンスで働いてもらうことができます。その結果、組織が活性化し、生産性の向上にもつながります。従業員の高齢化が進む職場においても、長く元気に働いてもらうような健康経営施策は有効です。
法令遵守という点においても、労働安全衛生法に「労働災害を防止し、職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を積極的に進めることを目的とする」と明記されており、企業は健康経営の積極的な推進が求められています。
社会に対しても、あるべき医療費の実現や国民のQOL(生活の質)向上といった貢献ができます。
・【従業員】にとっての目的、メリット
企業が推進する健康経営の施策に主体的に関わり、実践することで自分自身の健康管理を通じた健康増進や活力向上、メンタルヘルス予防などにつながっていきます。ほかならぬ自分自身のよりよい人生のために「健康」は欠かせないものです。多くの従業員が健康経営の各種取り組みに前向きに参加するように社内での広報活動は大変重要ですし、注力していただきたいポイントです。
また、健康になることで医療費がかからなくなるというメリットも出てきますし、年々増加する各健康保険組合の保険料や介護保険料の負担増にも歯止めがかけることができます。実は会社員が負担する健康保険料はこの10年(2009年~2019年)で年間約13万円も増えており、過去最高の更新が続いているんですよ。
40歳から支払いがはじまる介護保険料も、2000年の制度開始時から2021年時点で約2.1倍に膨らんでおり、今後も増えていくことが推測されています。
自分自身の健康状態を把握して健康増進に努めることは、社会保険料負担増に歯止めをかける=給与の手取りを少しでも減らさない取り組みにもなるんですよ。
・【国】にとっての目的
国は、人生100年時代を見据えた「健康寿命の延伸」を目標に掲げています。全世代型社会保障*を構築するためには「国民医療費の適正化」が喫緊の課題です。
国民医療費の適正化を図るには、現在の社会問題でもある「国民医療費の増加」を解決しなければなりません。2022年度の医療費は概算で46兆円(前年比約1.8兆円増加)と、ほぼ毎年右肩上がりで医療費は拡大を続けています。(厚生労働省のプレスリリースより)
医療費の拡大に歯止めをかけるためにも、国は健康経営を国の成長戦略のひとつとして位置づけ、普及・啓発をおこなっています。
*全世代型社会保障とは、お年寄りだけではなく、子供たち、子育て世代、さらには現役世代まで広く安心を支えていくため、年金、労働、医療、介護、少子化対策など、社会保障全般にわたる持続可能な改革方針です。
健康経営が推進される背景
現在、健康経営で最も有名な認定制度である経済産業省が行っている「健康経営優良法人認定2023」に認定されている企業は16,688法人に上ります。
関連情報>「健康経営優良法人2023」認定法人が決定しました! (METI/経済産業省)
国としても健康経営は成長戦略のひとつとして、大きな期待がかかっていると先に述べましたが、その背景を知るために、これまでの経緯を見てみましょう。
- 2014年:成長戦略である「日本再興戦略改訂2014」に初めて健康経営に取り組む企業を評価する枠組みを構築すること、が明記された
- 2016年:健康経営優良法人認定制度が開始、2016年度の認定法人数は318社、2022年度は14,012社と申請数・認定数は急上昇
- 2016年:経済産業省が公表した「企業の健康経営ガイドブック」に、「健康経営とは従業員の健康保持・増進の取組が、将来的に収益性等を高める投資であるとの考えの下、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること」と記載
- 2022年:閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザインおよび実行計画」でも取り上げられ、人的資本経営の土台として注目される。投資家や就活生等が健康経営優良法人認定の有無を企業評価に活用する動きも見られるようになる
健康経営の概念や実際の取り組みが急速に広まっていることが分かるのではないでしょうか。健康経営に取り組んでいる企業の優位性がどんどん上がっていきそうですね。
健康経営とは、従業員の健康を経営的視点から戦略的に実践していくこと、なのですね!
健康経営に関連するキーワード
事業を展開するうえで企業が取り組む様々な施策には、健康経営につながるキーワードが数多くあります。
例えば
・働き方改革
・SDGs
・ワークエンゲイジメント
・ウェルビーイング
・パーパス経営
・心理的安全性
・リスクマネジメント
健康経営は、これらの取り組みと合わせることで相乗効果を生みます。
限られたリソースで最大のリターンを得るためにも、やはり企業の経営戦略の中に健康経営を組み込むことが
重要です。